おすすめの本についてのコラムです。

コラムおすすめ本

安保 徹著 岩波書店
まずは、本のカバーの書評から
「腰痛、アトピー性皮膚炎から胃潰瘍、糖尿病、癌にいたるまで、なぜ病は治りにくいのだろうか。著者は、人体の秘密ともいうべき自律神経系―内分泌系―免疫系の相互関連のメカニズムを解明。ストレス、免疫を理解しない治療、薬の処方が病状を悪化させていることを指摘。病気の成り立ちや薬の作用を免疫学の立場から説き明かし病気にかからないためには、またかかったらどうしたら良いのかをアドバイスする。」


この本はとてもお薦めです。目からうろこの落ちるような斬新な見解の連続で今まで熱のあるうちは冷湿布で・・などとアドバイスしていた自分の知識を引っくり返されたような思いでした。病気の成り立ちを自律神経と免疫の関係から説明しているので、アレルギー疾患で悩んでいる人やアトピーのお子さんで心痛めているご両親、鎮痛剤が手放せない方にお薦めです。
ただし、著者は医師への訴えも意図しているようでかなり専門用語が多用されています。解らない語句に引っかからずに読み進めましょう。


この本のこういった所を知って欲しい、というのがいくつもあります。
それをこれから何回かに分けて紹介していきたいのですが興味が出れば、買って読んでみて下さい。


まずは自律神経と白血球の関連から。


自律神経とは運動神経のように自分の意思とは関係無く、年中無休で24時間内臓のコントロールを中心に働いている神経です。
自律神経にはシーソーのように片方が働けば、片方が休むといった関係の交感神経と副交感神経があります。


交感神経が働くときとは、身体は緊張状態にあります。動物がエサ取り行動に出るときに働く神経で運動、闘争、逃避のときに必要な機能を高めます。具体的には運動機能を高めるために心臓の働きを高め、呼吸を速くし、消化管の働きを抑制します。
また、闘争、逃避など緊急事態に対応しないといけない為、この神経が働いている時、痛みを感じる事が少ないのです。
大勢の人がいる前で転倒した時、何事も無かったように取り繕い、後で落ち着いた時擦りむいた傷を痛く感じたことがあるでしょう。あの時はアドレナリンがバンバン出てて交感神経緊張状態といえます。その状態から脱した時(副交感神経への戻り反射)に痛みが感じられるのです。


副交感神経が働くときは、身体は休息状態にあります。取ったエサを消化、吸収、排泄するときに働く神経で、休息、消化、吸収、排泄に必要な機能を高めます。具体的には心臓の働きを穏やかにし、分泌現象を促進し、消化管の働きを活発化します。
上記の痛みを感じるというのはこの副交感神経が働く時の反応のようです。この本を理解するためには、「痛み」は悪いことでなく、行き過ぎた緊張状態から戻るときの一時的な反応であり体の出す正常な反応だととらえる事が重要です。


そして、この本で重要な自律神経と関連のある白血球についてです。
白血球には大きく分けて顆粒球とリンパ球がありますが、著者の研究グループではこの白血球と自律神経の間に関連があり、交感神経は顆粒球を働かせ、副交感神経はリンパ球を働かせていることを発見したのです。
顆粒球は侵入してきた細菌にくっつき細菌を食べる作用を持っています。これが増えすぎると顆粒球が出す活性酸素で組織が傷害されます。


リンパ球は顆粒球では捕捉できないさらに小さなウィルスなどを抗体という飛び道具を使って攻撃し身体を守っていますが、これが増えすぎるとアレルギーを起こします。


顆粒球とリンパ球の割合は正常な人で顆粒球60%リンパ球35%だそうですが、面白いことにはこの割合の違いで人の性格や出易い症状が異なるらしいのです。


顆粒球70%リンパ球25%の人は交感神経緊張型(顆粒球人間)で以下の性格や傾向が強いようです。
痩せ型・筋肉質、皮膚は浅黒い、脈が速い、性格は攻撃的で意志が強く集中力が高い、短期決戦の働き者。
怒りっぽくて視野が狭い、そう状態に近い、活性酸素が多い。
便秘、胃潰瘍、胃もたれ、食欲不振、癌体質。


顆粒球45%リンパ球50%の人は副交感神経緊張型(リンパ球人間)で以下の性格や傾向が強いようです。
ふくよかな体型、女性に多い、皮膚はみずみずしく色白。にこやかでのんびりした性格、ストレスに強い、感受性が強い。持続力があり長生き体質。
注意力が散漫、瞬発力は無い、鬱状態に近い。
下痢、アレルギー体質。


いかがですか?交感神経緊張型は多忙で責任重大なビジネスマンに多いタイプのようです。
私の場合2年前の血液検査では顆粒球約63.5%リンパ球26.5%とやや交感神経緊張型のようでもう少し副交感神経が働くようにしなければと思っています。
定期的に健康診断を受けてる方は白血球のデータはあるでしょうから、探し出して自分が顆粒球人間かリンパ球人間かチェックしてみるのもいいですよ。


次回は引き続きこの本の中から病気の原因は?についてです。 [裕]


今回は引き続きこの本の中から病気の原因は?についてです。
著者は日常的に起こっている多くの病気は「生活習慣病」という言葉がある通り、日常の活動、食生活、心の悩みが大半(80%近く)の原因だと考えています。
ストレス(都市生活では排気ガス、田舎では農薬や環境ホルモンを含めた広い意味でのストレス)が交感神経を過度に緊張させ病気になる大きな原因だとしています。以下は病気になるメカニズムです。


○胃潰瘍
胃潰瘍の原因は胃酸や消化酵素が胃壁を荒らすという「自己消化」の説が100年来定説とされてきましたが、しかし、著者はストレス、過労、鎮痛剤使用によって引き起こされると断定しています。
ストレスで交感神経緊張状態が続くと血流障害に加えて、胃粘膜下に顆粒球が出現し増加します。それにマクロファージという白血球が出すTNF(潰瘍壊死因子という物質)やヘリコバクター・ピロリ菌が産生する物質で活性化された顆粒球が活性酸素を放出し、組織を破壊します。これがびらん性胃炎となり慢性化すると胃潰瘍をつくるそうです。


現在行われている治療は「胃酸」が悪玉として酸を抑える制酸剤が使われていて、治療にはこういったメカニズムに対する理解は無く、また、現在の診療システムでは時間をかけてストレスなどの根本原因に迫ることが難しいと著者は嘆いています。


○癌
癌になっている人の多くが働き者のがんばり屋であることからも分かるように働き過ぎと心の悩みが癌の原因であると著者は言っています。
白血球の自律神経支配によって交感神経と副交感神経がバランス良く働き生体の防御を行っています。
「働きすぎ」「大酒飲みの習慣」「心の悩み」を常に行っていると交感神経緊張状態が持続します。
そのときの軽い症状としては脈拍上昇、高血圧、高血糖、腰痛、肩こり、不眠、慢性疲労などが持続します。
体の中では顆粒球が増加し、血流障害が起こり、皮膚や腸の細胞に対して顆粒球の攻撃が続きます。
皮膚や腸の細胞は盛んに再生を行いますが、この交感神経緊張状態が年単位で続くと細胞再生が限界を迎え遺伝子異常が起こります。
(実際、著者らの研究グループによると早期~進行胃癌まで一様に顆粒球増加が見られたそうです)
本来癌細胞が発生してもそれを攻撃するNK(ナチュラルキラー)細胞やT細胞がいるのですがそれらは副交感神経の支配下で働くので交感神経緊張状態では十分活躍できないのです。
このようにして交感神経緊張状態下でリンパ球という敵が少ない環境で癌細胞が自己増殖を行うのです。


癌から逃れるためには、生活を振り返り交感神経緊張状態を強いてきた原因を取り除く事だと著者は説きます。
働き過ぎなら仕事の時間を減らし、趣味や睡眠の時間を増やす。大酒飲みなら酒量を減らす。難しくとも心の悩みを減らす、あるいは出来なくとも悩みのある状況が体に多大な影響を及ぼすことを知っているだけでも価値があるとしています。
他に興味深い原因として痛み止めの長期使用や癌検診も癌の引き金になりかねないと指摘しています。


少し難しいでしょうか?ストレスは検査器具で数値化しにくい物です。それと病気の原因を自律神経ー免疫というメカニズムで
解明しようとしているところが画期的だと思うのですが・・・


次回も引き続きこの本の中から薬漬け医療がなぜ起こる?についてです。 [裕]


今回も引き続きこの本の中から薬漬け医療がなぜ起こる?についてです。
著者は老人の多様な訴えに対し、医師がまじめに症状を改善しようと症状毎に薬を出した結果が薬漬け医療の現象であるとしています。
しかも、多様な訴えの最初の原因が痛み止めの処方であると言っています。


老化現象の初期症状に筋力の低下があるのですがそれにより筋肉疲労が起こり、血流障害になり治癒反応として血流が回復した時に痛みが発生するそうです。


*痛みの発生と鎮痛剤についての補足*
生体組織に何らかの傷害が起きると、そこの細胞膜は破壊され細胞膜からアラキドン酸が放出されますアラキドン酸はカスーケード反応という階段状に次々と起きる反応で合成物をつくりプロスタグランジンという発熱・発痛作用のある物質が出来あがります。一部の鎮痛剤はアラキドン酸→プロスタグランジンの合成を阻害することで痛みが出ない薬理作用があります。


痛み止めは痛みの一時的な消去と交感神経緊張状態を招きます。
著者は痛み止めの長期連続使用で以下のような交感神経緊張症状がもたらされるとしています。
頻脈、高血圧、末梢循環不全(手、足の冷え)、顆粒球の増多、粘膜破壊(胃を悪くする等)関節や骨の変形、尿量低下、腎障害、白内障、不眠、慢性疲労、食欲不振、便秘、口渇、動脈硬化、狭心症、心筋梗塞、脳卒中、発癌、多臓器不全等・・・


これらの症状を抑えるためにさらに降圧剤、循環改善剤、睡眠薬、下剤、胃薬などが併せて処方されてゆく


著者によると唯一患者を救う方法があるそうです。それは、...薬を全部やめること!


アメリカの医師用教科書「ドクターズルール425」の引用がされてます。
「可能ならすべての薬を中止せよ。不可能なら、できるだけ多くの薬を中止せよ。」
「4種類以上の薬を飲んでいる患者は医学知識の及ばぬ危険な領域にいる。」
「高齢者のほとんどは薬を中止すると体調がよくなる。」

いかがでしょうか?
医師、患者、製薬メーカーの誰も悪意を持っていなく、症状を何とか改善しようとしているにもかかわらず、病状が悪化してゆくという...下手なホラーよりゾッとする話です。


次回も引き続きこの本の中からアトピー性皮膚炎とステロイドについてです。 [裕]


今回も引き続きこの本の中からアトピー性皮膚炎とステロイドについてです。
アレルギー発現のメカニズムは副交感神経緊張状態でリンパ球が過剰に増え、周囲の環境に抗原(アレルゲン)が多いことで起きるとされています。この根本的なメカニズムを理解しないで、ステロイド外用剤に頼っていると以下のメカニズムで「ステロイド依存症」なる副作用を起こす危険があると著者は指摘しています。


新鮮なステロイドホルモンは化学式にО2をつけていず、それが炎症を抑える作用を示します。
また、酸化レベルの低いステロイドは尿から排泄されます。(体外への排泄が簡単ということ)それが、生理的濃度を超えて体内に入ったステロイドホルモンは、組織内に沈着し酸化コレステロールに変性してゆきます。これは、胆汁酸として肝臓から排泄されます。(体外への排泄は困難ということ)酸化コレステロールは交感神経緊張状態をつくり、血流のうっ滞と顆粒球の増加状態が組織に隙間なく広がり炎症を引き起こします。
この段階ではすでにアトピー性皮膚炎から酸化コレステロール皮膚炎に移行しているそうです。
この炎症を鎮めるためには前より多くのステロイド剤が必要になってくるとの事。
ステロイドが切れたら、ステロイドを塗らない場所にさえ炎症が広がってゆき、やがてステロイド依存症になってゆく。


酸化コレステロールは交感神経緊張状態をつくり、ついには不安感、絶望感、鬱状態の精神的症状を引き起こすとの事。
また、副交感神経がずっと抑制されているため激しい免疫抑制状態で(抵抗力が無いということ)もしステロイドから離脱しようとすると免疫機能低下の症状が強く出てくる。-リバウンド反応の1つ


アトピーのお子さんを抱えるご両親の辛さはどれほどだろう?と著者は結んでいます。


アレルギー発現の根本原因に立ちかえり、著者は副交感神経優位を招く原因の除去を提案しています。
詳しくはぜひ本を読んでみて下さい。


この本では一貫して交感神経と副交感神経のアンバランスが病気の成り立ちに密接に関係があるとされています。
カイロプラクティックの世界でも同じく交感神経と副交感神経のアンバランスが病気の成り立ちに密接に関係があると考えた治療家がいました。
1978年に逝去されるまでに100万人の患者を診たといわれるドクター・クラレンス・ガンステッドというカイロプラクティック界の偉大な巨人です。


この本の著者はメディカル・ドクター(M.D)の立場としては異端(失礼)かもしれませんが大きな可能性を秘めていると思います。
カイロプラクティック(東洋医学も)は全体の調和を考える医学なので、痛みや症状にとらわれずバランスを考えます。
この両者の良い所が融合すればもっと面白い健康像が描けるのではと思うのですが。 [裕]


私はここ4,5年読む本は実用書ばかりでした。
健康・治療関連の本、ビジネス書、パソコン書etc
本を選んで買う基準は読んで役に立つか立たないか-小説なんか長らく買って読むということは
ありませんでした。
ある雑誌の書評でこの本の紹介があり大変興味を引かれ買って読んだのですが、この本の感想を
一言で述べるなら「面白い!!」
寝る間も削って読み進みたくなり鳥肌が立つことや涙腺が緩むこともありで、小説の世界へ一気に
引きずり込まれてしまいます。


ストーリーは臨死体験(NDEニア・デス・エクスペリメント)をテーマにしたものです。
女性主人公のジョアンナは心理学者で、舞台となる病院で心停止後蘇生した患者の聞き取り調査をし、科学的に臨死体験を解明しようとしています。そこへ男性主人公の神経生理学者のリチャードが登場し脳内のある物質を投与することで臨死体験を実験的にシュミレーションするプロジェクトが始まります。
問題により実験の被験者がいなくなったことにより、女性主人公のジョアンナが被験者となり臨死体験を経験することに・・・
そこで見たものは夢ではなく確かに存在する場所で、誰もが知っているあの場所だった・・・
というものです。臨死体験というとトンネルがあり、それを超えると光に包まれ目の前には川があって死んだはずの肉親や知り合いが立っていて、というややオカルトめいた話なんですが、作者のコニーウィリスはそういった類の話を脚色し商業的なエンターテイメントにすり替え、金儲けをしている輩を嫌っています。
小説の中では主人公たちが科学的に解明しようと臨死体験を冒険してゆきます。
上下巻で一冊5センチほどの厚さのあるボリュームですが、一気に読んでしまい大満足できること請け合いです。[裕]
航路、コニー・ウィリアムス著 ソニーマガジンズ 上下巻 1800円


 最近、私が身体のことについて注目している理論が体温と免疫力の相関関係についてです。
このことは以前、このコラムで腹巻を買って実践している-とご紹介させていただきました。
体温を引き上げる方法はいくつもあるのですが、冬のこの時期に意外と重要なのが食べ物。
根菜類を多く摂るのも有効な手立てです。
さて、ある日の昼食に私がスーパーから買ってきたお惣菜は煮物でした。
中身は大根、タケノコ、ふき、レンコン、にんじん、こんにゃく、里芋、栗、椎茸。
これを見た妻は
「なんか、精進料理みたい。タンパク質が無いよ!これじゃ活力つかないよ~」
タンパク質がどれほど少ないかは別として、我われの世代は『肉』が活力の源!という信仰があるようです。
少年時代を振り返れば、
「昨日のうちの晩ご飯は、ビ・フ・テ・キ!今日は元気モリモリ!!」
などと友達に自慢していたものです。(古い表現ですいません)


 さて、そこで今回のコラムは食と栄養と健康の事について書いていきたいと思います。
ご存知の事と思いますが、栄養素というものは大きく5つに分けられます。
タンパク質、脂質、炭水化物、ミネラル、ビタミン。
そこで、タンパク質はどういう働きがあるかというと、身体の中で大切な働きをする酵素、ホルモン、免疫体の原料になっていたり、筋肉、臓器、血液、爪など身体の構成成分の主要な成分となっているのです。
このタンパク質が不足してくると、皮膚がカサカサになったり、髪の毛に弾力が無くなりなったり、抵抗力やスタミナが低下したりするのです。
そして、タンパク質の数は無数にあるのですが、基本的には約20種類あるアミノ酸の組み合わせで出来上がっています。


ここからは私が高校生時代大嫌いだった化学の話。
主要なアミノ酸の構造式は ○-CH-COOH
                     |     
                    NH2
○の部分に色々な構造式が入りアミノ酸名が決まります。(逆に言うと○以外は共通の構造式となる)
したがって、食物中のタンパク質は消化され、アミノ酸に分解され一度肝臓に集められてから、各組織に送られるタンパク質に合成されるのです。


 例えば、大豆にはトリプトファン、リジン、スレオニン、フェニルアラニン、チロシンetc
白米にはリジン、スレオニン、パリン、イソロイシンなどが含まれます。
非常に大雑把な例えを許していただけるなら、アミノ酸とタンパク質の例をお金に例えて、
最少構成単位の各アミノ酸を硬貨(1円、5円、10円、50円、100円、500円)
タンパク質を紙幣(1000円、2000円、5000円、10000円、ドル紙幣、ユーロ紙幣などなど)とします。
ここで、食物として食べて消化・分解されたアミノ酸を上述のリジン、スレオニン、フェニルアラニンなどを50円、100円、500円の硬貨に例えると、一度肝臓に集められてから、各組織に送られ硬貨(アミノ酸)がいくつか組み合わさって、1000円という紙幣の単位になって、タンパク質になる。
この様にして日々生体内では栄養素の取り込み→組織の合成が行われているのです。


ふぅ~我ながら疲れた。


さて、なぜここまで化学式とアミノ酸の分解と再合成にこだわったかと言うと、次回に話が続くのですが、
このアミノ酸を生体内で追いかける実験をした科学者の話をしたいからなのです。[裕]


 前回は食物として摂られたタンパク質がいったん消化分解されアミノ酸となりそれが各組織で再合成されタンパク質となる、という話でした。
さて、身体の組織-皮膚、筋肉、血液、腸管等などはどのように作られているとイメージされますか?
解剖、生理などの基礎医学を勉強していなかった頃の私が持っていたイメージはこんな感じです。


目や脳・神経はいったん出来上がったら(新生児の頃)、それ以降そこにある組織は変わらない。
骨は成長期が過ぎた後、そこにある組織は変わらない。
髪の毛、皮膚、爪などが数ヶ月という期間で新陳代謝してゆっくり後から出来た組織と入れ替わってゆく。
筋肉や内臓の組織は寿命がきた細胞が死んで、その少し前にその場所に新しい同様な細胞が出来る。
したがって、成長期を過ぎた人間が食べる日々の食物はほとんどが、身体の合成に使われるのではなく、身体を動かし、維持させるために使われる・・・


 かつてはそのように考えられていた生命観を大幅に変える実験と証明を1930年代後半にした人がいます。
その人の名はルドルフ・シェーンハイマー。


前回のコラムで
主要なアミノ酸の構造式は ○-CH-COOH
                     |     
                    NH2
○の部分に色々な構造式が入りアミノ酸名が決まります。ということをご説明しました。
そのN(窒素)の中で自然界にわずかながら存在する重窒素(普通の窒素より質量が中性子1個分重い)を使って、生物実験に使い、その重窒素が身体の中でどのように変遷してゆくかを追跡する、というアイデアを実践したのです。


 実験の内容は成熟したネズミに重窒素で識別可能なアミノ酸を含んだ餌を3日間与え、このネズミをその後に解剖し全ての臓器と組織について重窒素の行方が調べられました。
成長期のネズミなら摂取したアミノ酸が体の一部に組み込まれることがあるかもしれないが、成熟したネズミなら活動のため必要なエネルギー源となって燃やされ、排泄されるだろうと予想されたのです。
が、実験結果は予想を裏切っていました。


 糞尿中に排泄された重窒素は30%。
残りの重窒素がどこへ行ったかというと身体を構成するタンパク質の中に55%が取り込まれていたのです。
そして、その取り込み場所を探るとありとあらゆる部位に分散していたのです。
取り込み率が高いのは、腸壁、腎臓、脾臓、肝臓、血清など。
この結果わかることは2つ。
たった3日間与えた餌が身体中に取り込まれたという事は体の中で恐ろしく速いスピードでアミノ酸がタンパク質に組み上げられ、恐ろしく速いスピードでタンパク質がアミノ酸に分解され体外に捨てられている、ということなのです。
外から来た重窒素がどのように身体に取り込まれ捨てられるかというこの実験により解ったことは分子レベルでは重窒素がネズミの体の中をくまなく通り過ぎていった、ということなのです。


 このシェーンハイマーに実験を紹介してくれた本が分子生物学者福岡伸一先生の『生物と無生物のあいだ』
福岡先生は上記の内容を紹介されて、こう表現されているのです。
-よく私達はしばしば知人と久闊を叙するとき、「お変わりありませんね」などと挨拶を交わすが、半年、あるいは1年ほど会わずにいれば、分子のレベルでは我々はすっかり入れ替わっていて、お変わりありまくりなのである-


 シェーンハイマーはこれを「身体構成成分の動的な状態」と呼び、生命観をこう定義づけた。
-生物が生きている限り、栄養学的要求とは無関係に、生体高分子も低分子代謝物質もともに変化してやまない。生命とは代謝の持続的変化であり、この変化こそが生命の真の姿である-


 さて、これは幼稚園の先生から聞いた話。
その幼稚園の昼食はお弁当制で、ある子供の弁当を見ると、冷凍食品のたこ焼きを温めたものだけが、本当にたこ焼きだけがドンと入っていたとのこと。
食育の上で考えさせられる話です。
以前『身土不二』のコラムでも触れたように、成長期を過ぎた大人の身体であっても、旬の食材を地産地消し、新鮮で安心できる食材で身体を構成してゆきたいものです。[裕]


 今回も引き続き分子生物学者福岡伸一先生の『生物と無生物のあいだ』から印象的なトピックを1つ。
生物の臓器の中にある特異的なタンパク質がどういう働きをしているのか?
それを調べる手立てとしてテレビの話を出しています。
少し長いのですが、本から実験の概要を引用します。


 -テレビの後ろ側に回って、背面のパネルをはずしてみる。するとそこには赤や緑や黄色に塗られた小さなパーツが待ち針のように所狭しと並べられている。
あるパーツの役割を知るには、少々乱暴だが、そのパーツを取り去ったとき、テレビがどうなるかを試してみればよいのだ。
テレビの音声が消えれば、そのパーツは音を出すことに関与していたものだと推定できる。画像から色が失われれば、そのパーツはカラー化に何らかの役割を果たしていたものに違いない。
同じことが生物学においても可能なのである。あるタンパク質が、生命現象においてどのような役割を果たしているかを知るための最も直接的な方法は、そのタンパク質が存在しない状態を作り出し、そのとき生命にどのような不都合が起こるかを調べればよい。-


 さて、機械の部品ならそこにある一箇所のパーツを取り去るのは簡単なことなのですが、体中に無数に散在するタンパク質を取り除くのは容易なことではありません。


ではどうするか?


 そのタンパク質を作り上げる設計図(DNAの一部)を破壊するのです。
そうすればその生体ではDNAの一部が欠損しているのですから、あるタンパク質が合成されません。
これによりどういう影響が出るのか(テレビの例でいうと音が出なくなった等)を調べるのが「ノックアウト実験」というそうです。

 実験の過程は複雑なので省略しますが、完璧にノックアウトに成功したマウスの誕生に成功したのです。
あるタンパク質が欠損していることから→酵素が作れない→臓器としての正常な働きが出来ない。
という予測がされたにもかかわらず、その結果はどうであったかと言うと・・・


正常で全く異常は認められなかった。


 これが機械と生命の大きな違いを表している出来事であるといえます。
生命の誕生から身体が発育していく過程の中であるタンパク質が欠損していることから機能不全に陥ることなく、他のバイパスを経由して何とか生命体全体で生きていけるように調和を取り直す。
どうやらそういう事が起きていたようなのです。


 ここで私が強調したいのは機械と生命は違うという当たり前のことなのです。
臨床の場で会話をしていると、男女で治癒の過程に感覚差があるのを痛感します。
男性は身体を機械的に捉え、女性は身体を調和あるものと捉える傾向にあるようです。
腰のこの部分が痛いんだから、ここら辺の関節をキュ-と締めてやったら(なにかねじを締めるかのような表現で)サクサク歩けるようになるんじゃないか!?
な-んていう感覚はほとんど男性のものです。
調和が乱れているからここに不調が出ているんだ。だから、身体全体を総合的に見て良くしていこうというのは女性の感覚です。


どちらが治りよいかは・・・ご想像にお任せします。[裕]

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