オステオパシーの始まり~発展

オステオパシーとはいつ頃どのような人によって始められたのでしょうか?
フィリップ・E・グリーンマンの書籍やこの書籍で大変勉強になった大場 弘 D.C.の説明から引用します。

アンドリュー・テイラー・スティルの画像

スティルは医師として南北戦争(1864-65年)に従軍するが、当時の稚拙で危険な医療水準に無力感を抱いていたといわれる。
1864年カンサス地方に蔓延していた髄膜炎によって3人の子供を喪うことにより新たな医療の方法を模索するきっかけとなったと言われる。 彼は研究により神経および循環系の機能が人の健康と病気に重要な影響を及ぼしていることに注目している。 そのことにより人は本来健康であるようにできており、正確な刺激を与えれば病気を自ら 癒すことができると考えるにいたった。引用元:マニュアルメディスンの基礎から
100年後の今日、オステオパシーの大学は全米で15校を数えるに至り、毎年2千人近くのオステオパシーのドクター(D.O.)は、手術と必要最小限の投薬、それに手を用いた自然の治療を採用するファミリー・ドクターとして活躍している。引用元:マニュアルメディスンの基礎から

オステオパシーの哲学

スティル医師は、身体の異常な構造は体液(血液、リンパ液、脳脊髄液)の循環に悪影響を及ぼすと考えました。
特に背骨に問題があると、正常な神経伝達や内分泌、体液の循環が阻害されます。
これは筋肉や骨だけでなく体液循環や免疫の低下、内臓機能の低下などで身体全体に悪影響を与えます。

オステオパシーはこのような状況で人体全体を1つのユニットとみなし、自然治癒力が高まるように体のあらゆる部分に対してアプローチしてゆきます。

オステオパシーの主流の4原則

ここでは全米オステオパシー医学カレッジ協会の掲げる原則をご紹介します。

  1. 人体全体は1つのユニットである。
  2. 身体は本来、自己治癒能力を持つ。
  3. 構造と機能は相互に関与しあっている。
  4. オステオパシーの合理的治療は上記の3原則に基づいて行われる。
引用元:オステオパシー原理教育協議会(Educational Council on Osteopathic Principal)

太陽を抱くヨガのポーズ

この考え方は身体を臓器→細胞→遺伝子とどこまでも細分化して病気を取り除こうとする現代西洋医学よりも東洋医学の考え方に近いですね。

オステオパシーのその他詳細な原則

こちらも上記の書籍から原則を紹介します。

  • 身体は自己を防御し自らを修復する能力を備えている。(自然治癒力)
  • 環境の変化が自然治癒力に勝る時には病気が続いて起こる。
  • 体液の動きが健康の維持に不可欠である。
  • 神経は体液の流れをコントロールする決定的な役割を果たす。
引用元:An Osteopathic Approach to Diagnosis and Tretment,J.B.Lippincott Company

いかがでしょうか?
これを要約すると、本来自己治癒能力がある身体が環境的変化に適応できずに不調な症状や病気が生じるということですね。

例えば、普段使いではない自宅の机とイスで長時間パソコンに向かってリモートワークをする【環境の変化】

猫背姿勢の悪化と目の酷使【自然治癒力に勝る状況】

肩こりや頭痛の頻発【病気が続いて起こる】

など身近な例と置き換えて考えてみればわかりやすいかもしれません。

オステオパシーのテクニック

先程の4原則から第1から「人体全体は1つのユニットである。」
その他詳細な原則「環境の変化が自然治癒力に勝る時には病気が続いて起こる。」
4原則から第3から「構造と機能は相互に関与しあっている。」の3つを引っ張り出してきて様々なオステオパシーのテクニックを分類することが出来ます。

身体のどういう箇所にアプローチするのか

すでに目の前の患者さんは不調なり、病気なりを抱えています。
不具合のある身体の箇所に対して、構造(身体のある箇所)からアプローチして、1つのユニットである身体に対して自然治癒力を発動させて不調なり、病気なりを回復や改善に向かわせる手法がいくつもある、と言えます。
以下に分類したテクニック名は前掲の「オステオパシーアトラス」に準じます。

脊椎、関節の調整からアプローチする手法

  • 高速低振幅手技
  • スティルテクニック

関節の遊びを極限まで絞って「ポキッ」とやるカイロプラクティックや整体でもおなじみの方法ですね。
19世紀のアメリカではナチュロパシー、ホメオパシー、磁気治療、光線療法等々様々な療法があったのですが、このような手法を行うBone setter(整骨師)という職業がすでにあったんですね。その人たちの中には日本の古式柔術に精通した人がいたのかもしれません。

その著「癒す心、治る力」で現代医学と代替療法の統合を世に説いて大反響を巻き起こしたアリゾナ大学医学博士のアンドルー・ワイル先生が師と仰いだロバート・C・フルフォード博士がご自身の著書で次のように述べています。

本 命の輝きの表紙

いのちの輝き フルフォード博士が語る自然治癒力 ロバート・C・フルフォード 著 上野圭一 訳

別れ際に、フルフォード博士はとつぜん妙なことを言い出した。「オステオパシーの源流はどうも日本らしい」
問いただすと、マンリー・ホールの『人間』という本をもってきて、その扉を示した。見ると、そこには「オステオパシーの源流ともいうべきものは日本の柔術の整復法である」と書かれていた。

引用元:「いのちの輝き」ロバート・C・フルフォード著 -訳者あとがきから

筋肉、筋膜の調整からアプローチする手法

  • マッスルエナジーテクニック
  • 筋筋膜リリーステクニック

先程の例でリモートワーク→猫背姿勢の悪化→肩こりや頭痛の頻発などを思い浮かべていただくと、身体の中で短縮している筋肉があるのが想像つくかと思います。
短縮した筋繊維にアプローチするのがマッスルエナジーテクニック。
筋肉を包んでいる筋膜が短縮した箇所にアプローチするのが筋筋膜リリーステクニックです。

内臓の調整からアプローチする手法

  • 内臓テクニック

先程の例を引き続き使うなら、猫背姿勢で長時間慣れないデスクワーク環境でリモートワークを行っていて、いつもみぞおちのところを折り曲げるような姿勢が常態化したとします。

内臓をみるオステオパシーではそれぞれの臓器の随意運動(胃なら膨らんだりしぼんだり、腸ならミミズのように伸びたり縮んだりする動きを言います)や横隔膜の呼吸の動きで、横隔膜の下の臓器が上から押されたり戻されたりと、臓器固有の動き方があると考えています。この動きがみぞおちの長時間圧迫で阻害され、本来の動き方ができず不調になっていくとします。

この時胃が不調なら胃本来の動きのリズムを取り戻すようにアプローチするのが内臓テクニックです。

筋肉や関節に多数ある反射点からアプローチする手法

  • カウンターストレイン
  • チャップマン反射

筋膜や関節には東洋医学の経絡でいう「ツボ」のような反射点が多数存在します。
その反射点を使って関節の位置異常を改善させるのがカウンターストレイン、内臓に影響を及ぼしたりするのがチャップマン反射です。

脳脊髄液の調整からアプローチする手法

  • 頭蓋骨オステオパシー

筋肉や関節、内臓などは目に見えたり、触れたりすることで全体の形や仕組みが何となく理解できそうです。
ところが脳脊髄液(CSF)などと聞くと、身体の最深部にあるため医療系の人にしかイメージが抱きにくいかもしれません。
人のよっては何やら胡散臭そう、と感じる人もいるかもしれません。なので、ここでは3本の医学系の説明文や論文を引用します。

脳脊髄液(のうせきずいえき) 更新・確認日:2020年12月24日
脳と脊髄(せきずい:背骨の中にある太い神経の束)、そしてこれらを包んでいる膜(硬膜)の間に存在する無色透明な液体のことです。
脳室(脳の中の空洞)の中でつくられ、循環し、脳の表面で吸収されて静脈に戻ります。
役割は明らかではありませんが、主に脳の水分含有量を調節し、形を保つ役割をしていると考えられています。
髄液ともいいます。

脳脊髄液の第一の働きは、脳実質を水枕のように物理的な衝撃から守ることである。
この働きについて、髄膜の形態、脳脊髄液の産生・循環・排泄の面から情報を整理した。
脳脊髄液の第二の働きは、脳の内部環境のホメオスタシス維持である。

※ホメオスタシスとは恒常性(こうじょうせい)とも呼ばれます。
身体をある一定の範囲内に維持していく生体の機能を言います。
例えば、体温がわかりやすいかもしれません。
外気温が-5℃であっても38℃であっても、体温はいつも36.5℃前後と一定範囲内に保たれる機能のことを言います。

産生と吸収 脳脊髄液は絶えず循環しており、24時間に約500 ml(1分間に約0.35 ml)産生されていることから、1日に約3~4回入れ替わっている計算になる。

身体の箇所はどこを1つとっても大切で重要で無駄なものは1つもないのですが、野生の厳しい自然環境で生き残るために優先順位をつけて1番守らなければいけない臓器は脊椎動物(魚類以上)では、神経系でしょう。
そのため背骨という硬い管の中に進化の過程で配置されているわけです。
類いまれな洞察力のあったサザーランド博士(D.O.)は頭蓋骨の形状から脳脊髄液の循環に着目して頭蓋骨オステオパシーを発展、完成させました。

アロハカイロ&フットパラダイスでよく使うテクニック

マッスルエナジーテクニック

本 マニュアルメディスンの原理

マニュアル・メディスンの原理 フィリップ・E・グリーンマン 著 大場弘 訳

マッスルエナジーテクニック(Muscle energy technique)は、筋骨格系(骨、関節、筋肉、靭帯)それに関連した血管、リンパ、神経系の構成要素の機能異常による体の歪みを改善するために、アイソメトリック収縮(等尺性収縮)を利用したソフトで合理的な調整を実施する方法です。

アイソメトリック収縮の説明図

※アイソメトリック収縮(等尺性収縮)とは筋肉に力が入った状態で、その筋肉の長さが変わらない状態を言います。
上記の図は男性二人が手を握りお互い自分のほうへ引っ張ろうとしている図です。
手前に引こうとする時、「ポパイの力こぶ」で有名な上腕二頭筋に力が入ります。
この時握りあったこぶしが、男性Aの方にも男性Bの方にも動かず真ん中で力が均衡している時、上腕二頭筋は力が入っていますがその長さは変わっていません。
これを難しい言葉で「等尺性」と呼んでいるのです。

マッスルエナジーテクニックの起源と歴史

マッスルエナジーテクニックは、1950年代にオステオパシー医師のフレッドLミッチェル(Fred.L.Michell)が、当時あった脊椎の生体力学、側湾評価に対する原理を取り入れて系統立てられました。

その後ミッチェル医師は60年代から70年代にかけて機能解剖学、関節運動学、神経生理学などの原理を取り入れて骨盤調整、脊椎調整、腕や脚の関節の調整など頭蓋骨を除くすべての関節を対象として調整する方法が確立されています。

マッスルエナジーテクニックの基礎的な仕組み

マッスルエナジーテクニックには大きく分けて2つのアプローチ方法があります。

  1. 過緊張し短縮した筋肉に対するアプローチ
  2. 虚弱化し伸張した筋肉に対するアプローチ

ここでは肘関節の例で1.のアプローチ方法を挙げます。

肘関節の動きの説明図

上の図は腕の筋肉で肘を曲げる模式図です。
上腕二頭筋が短縮して、反対に上腕三頭筋が伸張することで肘関節は曲がることができます。
このある関節に対してシーソーのように反対方向に動くことを「拮抗」(きっこう)と言います。

ここで上腕二頭筋が本来の長さよりも短縮してしまい、肘が真っ直ぐ伸ばせない状態になってしまったケースを考えます。

マッスルエナジーテクニックでは、患者さんに肘を曲げてきてもらい、ある時点で「アイソメトリック収縮」の状態にして数秒間維持します。その後力を緩めてもらい上腕二頭筋にストレッチをかけるのです。
これを数回繰り返して、上腕二頭筋本来の長さまで戻して、肘が真っ直ぐ伸ばせないという機能障害を改善させてゆくのです。

アロハカイロ&フットパラダイスではオステオパシーのテクニックの中で、このマッスルエナジーテクニックが安全で効果的だと判断し、1番多く使っています。

頭蓋仙骨療法(クラニオセクラルセラピー)

本 頭蓋仙骨治療の表紙

頭蓋仙骨治療 ジョン・E・アプレジャー 著 目崎勝一 訳

上述の脳脊髄液の調整からアプローチする手法の頭蓋骨オステオパシーがこれにあてはまります。
脳脊髄液(CSF)の循環を整えるアプローチ方法です。
頭蓋仙骨療法の紹介文に関しては理学療法士(整形外科にいるリハビリの先生)向けの本から引用します。

-イントロダクション- 頭蓋仙骨療法はオステオパシーの治療法であるが、整形外科徒手療法を行っているアメリカの理学療法士のなかには、この手技を頭痛、頸部痛あるいは腰痛の治療に用いている者もいる。
頭蓋仙骨療法とは19世紀の終わりから20世紀初頭にかけて、頭蓋の標本を観察していたW.G.Sutherlandは、その縫合の形状から、頭蓋は硬く動かないものではなく、ある程度の可動性があると推測した。(中略)
この頭蓋、あるいは仙骨で感じられる波動リズムは1分間に6~12回のサイクルであり、呼吸数よりは少なめである。(中略)
生体内が病的状態だと頭蓋仙骨系のリズムが変わるものと考えたオステオパシーの治療者たちは、このリズムの異常や動きの左右の不均衡などを改善することで痛みだけでなく、さまざまな病的な状態を治療できると考えている。
引用元:系統別・治療手技の展開から 共同医書出版

アロハカイロ&フットパラダイスでは全身の調整の最終段階で、このアプレジャー博士(D.O)の頭蓋仙骨療法を取り入れています。
前述の身体が刻むリズムが左右対称かチェックに使ったりもしています。

ストレイン・カウンターストレイン

本 ストレイン・カウンターストレインの表紙

Dr.ジョーンズのストレイン・カウンターストレイン ローレンス・H・ジョーンズ 著 

ストレイン・カウンターストレインは痛みや不調を発し続ける筋肉や関節にあるセンサーを圧痛点としてアプローチし、その圧痛が楽な姿勢をとることで、脳との神経情報をリセットして、筋肉や関節から起きている機能異常を減少させる手法です。

内側ハムストリングの調整法

上の図は内側ハムストリング(腿の後ろ側にある筋肉群の内側の筋肉です)の調整法です。
例えば、患者さんがここ数週間、歩いてたり階段を降りるときに腿の内側がどうにも痛い、というケースがあるとします。
ストレイン・カウンターストレインの手法では、それが内側ハムストリングであろうと、推測できたなら 膝の後ろのやや内側に触れて圧痛点を特定します。

施術者が脚をいろんな方向に動かしながら、圧痛点の痛みが1番減少するポジションまで持っていきます。
上の図ではこの体勢が、内側ハムストリングの圧痛を減弱させる模範的なポジションだという例です。

重要なのはそのポジションを探した後、90秒その状態を保持することです。
このことにより異常信号を発し続けていた圧痛点上のセンサーが脳とのやり取りをリセットもしくは減弱して痛みを改善させてゆくという調整法です。

アロハカイロ&フットパラダイスでは主に四肢(腕と脚)の不調にこの調整法を取り入れています。

誇張法(間接法)

福島県の齋藤巳乗先生が考案された調整法です。
私が以前所属していたカイロプラクティックの協会P.A.A.Cでは資金難になった時にこの齋藤巳乗先生が講師となり、受講生を多く育て、資金繰りにもかなりの助力があったそうです。
その受講生であったインストラクターからこの調整法を教授されました。

胸椎が後方・右回旋・左側屈にズレたのを触診する図

直接法と間接法

この模式図は背中を後方から見て、胸椎が後方にズレ、右に回旋し、左へ傾いたのを触診している様子です。
グレーの胸椎の模式図は象の顔みたいですね。
なので、以下は象の顔のパーツを利用してご説明します。
象の鼻の部分は右にズレているので、可動性を触診すると、右から左には抵抗があって、左から右にはいくぶんかの可動性があります。
ここで言う右、左は向かって右、左という意味です。

ズレの調整をするために、鼻の右側にコンタクトして、高速低振幅でガツンとやるのが「直接法」
あるいは象の落ちた左耳部分にコンタクトして上に持ち上げるようにポキッとやるのが「直接法」です。

それに対して、象の鼻の左にコンタクトして、いくぶんかある可動性を利用して、よりズレている方向(この模式図では左から右に向けて)に弱い圧を加えて、本来の正常な位置に戻させようとするのが「間接法」です。
この時使われる圧は驚くほど軽い5g程度なんです。

この方法を齋藤巳乗先生が考案し、誇張法と名づけられました。
先生の晩年、私の友人が福島まで尋ね見学させていただいたそうですが、水頭症のお子さんが先生の治療を求め世界中から来院されていたそうです。

アロハカイロ&フットパラダイスでは、ひざ痛やねん挫で足首がパンパンに腫れている時などに、安全で効果的な調整法として取り入れています。

おわりに

長々とオステオパシーのテクニックとはどういうものか、という文章にお付き合いいただきましてありがとうございます。
このサイトのプロフィールにも書いてあるのですが、カイロプラクティックに関してはカイロプラクティックの協会P.A.A.C所属のユニバーサル・カイロプラクティック・カレッジという専門学校で3年間、それこそみっちりと勉強させていただきました。

それに対してオステオパシーのテクニックに関しては「内臓マニピュレーション」の日本での第一人者である銀座治療院の田尻先生に師事し、臨床の場に立てたことが大きな経験となりました。
最近はここ鎌倉でも、オステオパシーという文言をあちこちで見かけるようになってきましたので、HPリニューアルを機会に「オステオパシー」のページを新設しました。
巷には次々と新しい名前の手技があふれ、どういう物を選べばわからないという方のご参考になれば幸いです。