カイロプラクティックとしてどう考える?
アロハカイロ&フットパラダイスには様々な症状を訴える患者さんがご来院されます。
患者さんがツライといっている内容から私がどのような思考回路で、どこに問題がありそうなのか推論を立て、検証をし、調整をしているのかをご紹介します。
今回は問診が重要なので、会話形式を取り入れてみました。
問診と主訴(一番ツライ症状)の右肩痛
ケーススタディ 右肩痛
- アロハカイロプラクティック 高橋
- アロハカイロ&フットパラダイスの院長
2001年から鎌倉市材木座に在住
- 榊原さん(仮名)
- 鎌倉市七里ガ浜在住
初診は両側臀部痛。
メンテナンスを兼ねて3週間に1度のペースでご来院。
右肩関節の中の方と肩甲骨部上半分を指し示しています。
上の図の赤い矢印と赤いマークの部分が痛む箇所とのことです。
一番痛いのは仰向けで寝てる時、右肩が浮いてるんです。あとは、動かしている時に何かの拍子に痛みます。
夜寝てて痛みで起きてしまうのがとにかくツラいんです。
視診で彼女のツラくないという体勢を観察します。
だらんと垂らした腕の手の親指は前方やや内方に向いています。
上腕は内旋位にあるということです。
上腕の内旋と外旋について
上腕の内旋と外旋はこの図の通りです。
ちなみに上腕の可動域は内旋55° 外旋40°~45° です。
腹臥位のカイロプラクティック調整
彼女はツライ症状があっても無くても3週間に1度、メンテナンスを兼ねて通院されています。
うつ伏せの状態では、いつもの状態とさして変わらずです。
右の肩甲骨付近の筋肉にも触診の結果、大きな異常は見られず。
仰臥位のカイロプラクティック調整
さて、ここで痛みが出るという仰向けになってもらいます。
彼女の手のひらは天井の方向に向き、親指は外側に向いています。
上腕が外旋しているわけです。
(上腕の内旋筋に問題があるかもな。)
筋肉の作用
筋肉の作用はいくつかありますが、一番代表的な作用が骨格筋が運動を行うことです。
骨と関節と骨が連結していて、そこにまたがる骨格筋が収縮と弛緩をすることで運動が行われます。
上の図で上腕二頭筋が収縮し、上腕三頭筋が弛緩することでひじ関節は曲がることができるのです。
上腕の内旋筋
①肩甲下筋
②大胸筋
③広背筋
④大円筋
番号が若いほど作用の役割が高いと考えてください。
肩甲下筋
この図では第1~5肋骨を切り取り前から肩甲下筋が見えるようにしてあります。
【解剖学的説明】
肩甲下筋は肩甲骨前面に起始して、上腕骨の小結節に停止する。
作用は上腕の内旋と内転である。―動きの解剖学 Blandine Calais-Germain著 仲井光二訳
肩甲骨前面に付着している肩甲下筋は上腕骨の小結節(上腕骨の前で外側の部分)にも付着しています。
この筋肉が縮むと上記の筋肉の作用の上腕二頭筋のように、骨を動かします。
動く方向は小結節の部分が内旋と内転するように引っ張られると想像して下さい。
視診の重要性
随分長いプロフィールにも記載していますが、私はカイロプラクティック協会 PAACの専門学校ユニバーサル・カイロプラクティック・カレッジで仲井DC(ドクター・オブ・カイロプラクティック)に2年間臨床学を教わりました。
数多く、のちの臨床に役立つ知識を頂いたのですが、その中で印象的なのがアプライド・キネシオロジー・テクニックの創始者ジョージ・グッドハートDCの下のセリフです。
「とにかく患者を観察せよ。患者の体の中に治療のヒントが隠されている。」
痛めた筋肉はどうなる?
急激な外力などで痛めた骨格筋は短縮をして、回復期がくるまでは短縮した状態を維持して、その状態より伸ばされると痛みを発します。
推論を立てる
何らかの原因で肩甲下筋が痛められ、短縮したままで上腕を内旋位に固定しているのではないだろうか。
それ以上伸長されるバリアを超えると痛みを発しているのでは。
第2の主動の内旋筋である大胸筋も短縮固定しているとしたら、「仰向けに寝ている時に右肩が浮く」という訴えも納得がいく。
推論検証のため肩甲下筋の可動域を調べる
肩甲下筋の可動域を調べてみます。
すると陽性。
この図でAは正常な可動域で、前腕をベットと平行な角度まで動かせています。
Bは前腕をベットと平行な角度まで動かせていなくて、この状態は肩甲下筋の短縮が疑われます。
肩甲下筋の可動域を正常範囲まで調整
今回はマッスルエナジーテクニックを使い肩甲下筋の可動域を正常範囲まで回復させました。
マッスルエナジーテクニックとはいずれHPでそのページを作る予定ですが、簡単に説明すると、アイソメトリック収縮とその後のストレッチを繰り返し、筋肉の長さを正常なものまで回復させるというテクニックです。
再発予防のため原因を探す
せっかく肩甲下筋を正常な状態に回復させても、原因が分からず日常生活で再度痛めては困ります。
肩甲下筋を痛めたというケースはほとんどまれで、私の臨床経験でも記憶がないほどです。
原因を探している時、両手を万歳して腕全体の左右の長さを比較していた時に、榊原さんの7分袖がまくれ上がり右ひじの内側が見えました。
そこの何やら新しい傷があります。
患部の近くに新しい傷があれば、それがきっかけとなっていないか疑え
これが私の臨床上の経験則です。
(ビンゴ!これだ 脊髄反射だ)
脊髄反射とは
とっさの行動を起こす機能です。
有名なものでは、膝のすぐ下の所を叩くと、脚がびくんと跳ねるように動く膝蓋腱反射は脊髄反射の1つです。
また、今回の事例のように熱いものやトゲなど痛いものに触ってさっと手を引っ込めたりするのも脊髄反射の1つです。(屈曲反射とか引っ込め反射といいます)
脊髄反射は、大脳まで情報を送らずに脊髄レベルで処理するので、短時間のうちに運動を起こすことができます。
やけどの瞬間を想像してみる
パン生地を十分熱くなったオーブンに入れようとする。
右ひじの内側が熱くなったオーブンの一部に触れてしまう。
「熱っ!」と叫びながら、右腕は熱い刺激の対象物からできるだけ離すために、右ひじを外側に大きく振る。
この動作は上腕を外旋させることになります。(たぶんMAXの可動域まで)
肩甲下筋は内旋筋ですから、普段経験したことのない短い時間で最大限まで伸張させられたことでしょう。
急激に引っ張られて傷んだ筋肉は回復期がくるまで短縮したままとなります。
おそらく、これが今回の右肩痛の原因でしょう。
原因がアクシデントなら、再発対策は講じようがありません。
早く回復するためのホームケアが重要になってきます。
今後早く回復するには?
ここまでの経緯をごく簡単に説明し、上腕を外旋させると痛みが出るので、そうしないようアドバイスすることにしました。
おわりに
いかがでしたか?
私は過去の症例に一致しないケースに遭遇すると、今回のような問診と視診、推論と検証をして症状(問題点)を改善させてゆきます。
これは以前私がコラムで書いた「PDCAサイクル」の考え方にも当てはまります。
3週間に1回は通院いただく榊原さんにその後の経過を聞いたところ、仰向けで寝るときは腕を外旋しないよう心掛けて頂いたようで夜痛みで目覚めることはなく、徐々に快方に向かったそうです。
こういった経験が[引出し]の1つとなって蓄積されてゆくんですね。
重要なのは患者さんが発した言葉を聞き逃さずに、問題点のある個所を見つけ、2人3脚で改善に向け進めていくことなんです。